フィルムやシート材を型で抜く「打ち抜き加工(型抜き加工)」は、一見シンプルな工程に見える。だが実際には、納入先の業界によって求められる精度も、通すべき規格も、管理の考え方もまったく異なる。
同じ「フィルムを型で抜く」という行為が、自動車業界では「量産の安定性」を、医療機器業界では「生体への安全性と衛生管理」を、電子業界では「ミクロン単位の位置決め」を意味する。本稿では、この3業界を軸に、打ち抜き加工に求められる規格と精度の違いを整理する。
目次
そもそも「打ち抜き加工」とは何か
打ち抜き加工とは、金型やロールを使ってフィルム・シート・粘着テープ・金属箔などを目的の形状に切り抜く加工技術の総称だ。ガスケット、光学フィルム、絶縁材、電子部品の外形加工など、用途は非常に幅広い。
加工方式には主に以下がある。
打ち抜き加工の主な加工方式
①トムソン抜き(ビク型)
木型に刃を組み込んだ抜き型を使う方式。多品種少量向き。
②ロール抜き(ロータリーダイカット)
円筒状の金型をロールに組み込み、連続的に抜く方式。量産向き。
③レーザー加工
金型を使わず、レーザーで直接切断。試作や複雑形状に強い。
どの方式を選ぶかは、求められる精度・ロット数・材料特性によって決まるが、実はここからが業界ごとに大きく分かれるポイントになる。受託加工でこれらの業界を横断的に手がける企業は、案件ごとに求められる「勝負どころ」の違いを都度見極めながら加工方式を選定している。
自動車業界:「量産の安定性」と「不良ゼロ」への執念
自動車部品の打ち抜き加工で使われる代表的な部材は、防振ゴム、遮音材、内装用フィルム、電池セル用の絶縁シートなどだ。
自動車業界に部品を供給する企業には、品質マネジメントシステム規格「IATF16949」の要求に沿った体制が求められることが多い。これはISO9001をベースに、自動車産業特有の要求事項を上乗せしたセクター規格で、国際自動車産業特別委員会(IATF)が策定した。第三者認証を取得するかどうかは企業によって異なるが、少なくとも「IATF16949の要求に準拠したマネジメントシステムを構築している」ことが、取引の入り口になるケースが多い。
IATF16949の特徴は、発生した不良への改善活動を重視するISO9001に対して、不良の発生そのものを未然に防ぐ「予防重視」の考え方が中心に据えられている点にある。つまり自動車業界が打ち抜き加工に求めているのは、「高精度な1個」よりも「均質な100万個」だ。量産ラインでロールtoロール加工を行う場合、刃の摩耗や材料の伸縮によって数千枚に一枚だけ寸法がズレる、といった事態が許されない。
この「均質性」を裏付けるのが、工程能力指数(Cpk)やトレンドアベレージ±3σといった統計的な品質管理指標だ。抜き加工後の寸法を画像処理測長機などで全数もしくはサンプリング測定し、数値で工程の安定度を管理する体制が、量産部品を任される加工会社の条件になる。
自動車業界における品質管理のポイント
代表規格
IATF16949(ISO9001に自動車産業特有の要求事項を上乗せしたセクター規格)
最優先事項
量産の均質性・不良の未然予防(「高精度な1個」より「均質な100万個」)
管理指標
工程能力指数(Cpk)、トレンドアベレージ±3σなどの統計的な品質管理
また自動車部品は不備があれば人命に関わりかねないため、耐久性・耐熱性・振動への強さも同時に問われる。部品サイズの小型化・軽量化が進む中で、精度を保ちながらコストも維持するという相反する要求への対応も、この業界特有の難しさだ。受託加工を担う企業にとっては、量産金型の設計段階から不良の原因を潰し込む「作り込み」の発想が欠かせない。
医療機器業界:精度よりもまず「安全性」と「衛生管理」
医療機器分野で打ち抜き加工が使われるのは、絆創膏やドレープなどのメディカル用途フィルム、検査キットの部材、センサー部品、カテーテル関連部材など多岐にわたる。
この業界で事実上の入場券となるのが、医療機器の品質マネジメントシステム規格「ISO13485」だ。ISO9001と似た構造を持つが、リスクマネジメント、滅菌工程の管理、トレーサビリティなど、医療機器特有の要求事項が追加されている。日本国内で医療機器を製造する場合は、これに加えて薬機法に基づく「医療機器製造業」の登録も必要になる。
医療機器向けの打ち抜き加工で特徴的なのは、精度そのものより「異物混入・汚染をいかに防ぐか」が最優先課題になる点だ。フィルムを抜く際に発生する微細な粉じん(バリ)が製品に残留すれば、人体に触れる医療機器としては致命的な欠陥になりうる。そのため多くの企業がクリーンルーム環境での抜き加工を採用している。
ただし、医療機器向けの衛生管理は「空気の清浄度」だけでは完結しない。作業者自身が汚染源にならないよう、体温や皮膚の傷の有無を確認するといった健康状態の管理まで含めて、総合的な衛生体制を敷いている企業もある。今後はこうした人的な衛生管理をさらに一歩進め、手洗いなど水回りの設備・運用面を強化していく方向性を打ち出す企業も出てきている。清浄度管理が「空気中の異物を減らす」取り組みだとすれば、水回りの強化は「作業者由来の生物学的リスクを減らす」取り組みであり、両輪がそろって初めて医療機器向けの衛生基準を満たせる。
医療機器業界における品質管理のポイント
代表規格
ISO13485(国内製造の場合は薬機法に基づく医療機器製造業の登録も必要)
最優先事項
異物混入・汚染の防止(清浄度管理+作業者の健康状態管理)
素材への要求
生体適合性のある材料、滅菌工程(ガンマ線・電子線・EOG・オートクレーブなど)への耐性
さらに使用する素材にも制約が多い。生体適合性のある材料を選定し、滅菌工程(ガンマ線・電子線・EOG・オートクレーブなど)に耐えられる材質・構造であることが求められる。「切り口の美しさ」より「切り口から何も出さない」ことが評価軸になる業界、と言い換えてもいい。こうした厳格な要求に対応できる企業は限られており、医療機器製造業の登録を持ち、なおかつ受託加工として量産・試作の両方に対応できる体制は、業界内でも希少な存在だ。
電子業界:「ミクロン単位」の位置決めがすべて
電子業界での打ち抜き加工の主戦場は、フレキシブルプリント基板(FPC)、タッチパネル用の光学フィルム、絶縁テープ、電磁波シールド材などだ。
FPCの製造工程では、配線パターンや部品を実装した後、補強板を接着シートで固定し、最後に抜き型を使って一つ一つの基板の形状に切り出すという工程が組み込まれている。ここで求められるのは、配線パターンと外形抜きの位置ズレを最小限に抑える精度だ。配線幅がミクロン単位の基板に対して抜き位置が数十ミクロンでもズレれば、断線や短絡といった致命的な不良につながる。カメラを用いた画像認識でパターンを検知しながら抜き位置を制御する「見当合わせ(レジストレーション)」技術が、電子業界向けの打ち抜き加工では標準的に使われている。
見当合わせ(レジストレーション)技術の流れ
①カメラで配線パターンを画像認識
→
②抜き位置をミクロン単位で補正
→
③高精度で打ち抜き
自動車業界が「量産の均質性」、医療機器業界が「衛生管理」を軸にするなら、電子業界は「位置決め精度」がすべてを決める世界だ。
自動車が「数値で管理する均質性」、医療機器が「空気と人の両面から管理する衛生」、電子部品が「画像で管理する位置精度」を軸にしていると整理すると、3業界の違いが見えやすい。
受託加工という「橋渡し」の役割
ここまで見てきたように、打ち抜き加工は業界ごとにまったく異なる「勝負どころ」を持つ。裏を返せば、複数業界に同時対応できる受託加工会社は、統計的な量産管理・衛生管理・高精度位置決めという性質の異なる能力を、社内に併存させていることになる。
たとえば滋賀県に本社を置く淀川サンセイ株式会社は、医療分野・エネルギー分野・ライフサイエンス分野を重点領域としながら受託加工を手がけており、医療機器製造業の登録とISO13485・ISO9001・ISO14001の認証を保有しつつ、自社の品質マネジメントシステムをIATF16949の要求にも準拠させることで、自動車・電子・医療機器向けの製品に対応している。
スリット・打ち抜き・ラミネート・印刷・アッセンブリー・検査までを自社内で一貫して行う体制のもと、クリーンルーム(ISO14644-1清浄度クラス7、3,300㎡)や大型プレス、ロール材打ち抜き連続プレスといった設備を使い分けることで、異なる業界要求に対応している。
淀川サンセイ株式会社の対応体制
保有認証・登録
医療機器製造業登録、ISO13485、ISO9001、ISO14001(品質マネジメントシステムはIATF16949の要求にも準拠)
一貫生産体制
スリット・打ち抜き・ラミネート・印刷・アッセンブリー・検査を自社内で一貫対応
主な設備
クリーンルーム(ISO14644-1清浄度クラス7、3,300㎡)、大型プレス、ロール材打ち抜き連続プレス
「1社で複数業界に対応できる」というのは、単に技術の幅が広いという意味ではない。統計的な品質管理、衛生管理、精密な位置決めという、本来別々に磨かれるべき能力を同時に維持し続けているという意味でもある。受託加工という立場だからこそ、業界ごとに異なる「品質の哲学」を切り替えながら対応する力が、そのまま企業の技術力の証明になる。