近年、製造業の研究開発・品質管理の現場では、成分分析にかかる時間や専門知識への依存が課題となっている。こうした中、赤外分光技術を核とするディープテックスタートアップ、株式会社Soilookが、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とAIを組み合わせた「高速2次元FT-IR成分分析カメラ」の開発に乗り出した。同社は公益財団法人 市村清新技術財団の「第117回 新技術開発助成」への採択を受け、今後、開発を加速していく。
技術的背景・業界課題
製造業の研究開発や品質管理の現場では、材料の成分をいかに正確かつ迅速に把握できるかが、開発スピードや製品品質を左右する重要な要素となっている。
成分分析の代表的な手法のひとつに、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)がある。物質に赤外線を照射した際の吸収スペクトルから化学成分を特定する分析手法で、樹脂や塗料をはじめ幅広い材料の分析に用いられてきた。近年ではこの分野に、AI・データ解析を活用して材料開発を効率化する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」という手法も広がりつつある。
赤外分光技術を核にセンシング技術の研究開発を進めてきた株式会社Soilook(香川県高松市)は、このFT-IRとMI・AIを組み合わせることで、従来よりも高速かつ効率的な成分分析を目指している。
用語解説:FT-IRとは
フーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)の略。物質に赤外線を照射した際の吸収スペクトルから、含まれる化学成分を特定する分析手法。
FT-IR分析
赤外線の吸収スペクトルから化学成分を特定する従来からの分析手法
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)
AI・データ解析を活用し、材料開発や条件探索を効率化する手法
具体的な課題
製造業の研究開発や品質管理の現場における成分分析には、共通した課題がある。分析に時間がかかり、サンプル数が増えるほど評価工数は積み重なる。また、測定条件の設定には専門知識が求められ、分析品質が熟練者の経験に依存しやすい。
こうした課題は、研究開発のスピードが競争力に直結する製造業にとって、看過できないボトルネックとなっている。
製造業の成分分析が抱える主な課題
分析に時間がかかる
測定条件の設定に専門知識が必要
サンプル数が増えるほど評価工数が大きくなる
熟練者の経験に依存しやすい
技術の仕組み・原理
Soilookが開発を進める「高速2次元FT-IRカメラ」は、2次元で成分分布を取得できる分光イメージング技術に、AIによるデータ解析を組み合わせたものだ。
一般的なFT-IR分析が1点における成分を調べるのに対し、この技術では面としての成分分布を一度に取得できる。これにより「どの成分が、どこに、どのように分布しているか」を短時間で把握できる分析環境の構築を目指す。取得したスペクトルデータの解析にAI・MIを組み合わせることで、従来は熟練者の知見に頼っていた測定条件の設定や結果の解釈についても効率化を図る狙いだ。
なお、具体的な処理アルゴリズムや装置の仕様については、開発中の技術であるため現時点で公開されている情報はない。※要確認
2次元分光
イメージングで取得
AI・MIによる
データ解析
成分分布を
短時間で可視化
従来のFT-IR
1点における成分を調べる
2次元FT-IRカメラ
面としての成分分布を一度に取得
活用シーン・導入効果
Soilookでは今回の助成を活用し、開発スピードと技術完成度をさらに高めていくとしている。単なる分析装置の開発にとどまらず、将来的には研究開発・製造現場における自動化や、ラボオートメーションとの連携も視野に入れているという。
成分分析の高度化と省人化が進めば、熟練者の経験に頼っていた分析業務をデータドリブンな仕組みに置き換えられる可能性がある。品質管理の現場でも、サンプル数が多い場合の評価工数削減が期待される。
なお、具体的な導入時期や対象業界については、現時点で公表されている情報はない。※要確認
研究開発の現場では
熟練者の経験に頼っていた分析業務を、データドリブンな仕組みに置き換えられる可能性
品質管理の現場では
サンプル数が多い場合の評価工数削減が期待される
今後見込まれる展開の方向性
分析装置単体の提供にとどまらず、研究開発・製造現場の自動化、ラボオートメーションとの連携も視野に入れて開発が進められる(※導入時期・対象業界の詳細は要確認)。
まとめ
Soilookは、赤外分光技術をベースに、ガス可視化や成分分析、インフラ・環境分野のセンシング技術を手がけてきたディープテックスタートアップだ。今回の「高速2次元FT-IRカメラ」開発は、同社が掲げる「見えない情報を可視化し、現場の判断につながる技術へ変える」というビジョンを、材料の成分分析という新たな領域で体現する取り組みといえる。
分析に時間がかかる、専門知識が必要、属人化しやすい――そうした課題に、FT-IR×MI・AIがどのような解を示すのか、今後の技術開発の進展が注目される。
「見えない情報を可視化し、現場の判断につながる技術へ変える」