研磨材や機能性フィルムの製造に欠かせない「糊付け・塗工工程」。ロール間に材料を通すこの工程には、作業者の手や衣類が巻き込まれるリスクが常につきまといます。株式会社スギイマシナリィの「セーフティー・スプレッダー(安全増糊付機)NMZ-100/JH」が体現する安全設計の考え方から、研磨・コーティング現場が学べることを整理します。
ロール搬送工程に潜む「巻き込まれ」のリスク
研磨材や機能性フィルムの製造では、原反にコーティング剤や接着剤を均一に塗布する「糊付け・塗工工程」が欠かせません。ロール間に材料を通す構造上、この工程には常に一定のリスクが伴います。作業者の手や衣類がロールに触れてしまった場合、従来の糊付機の多くは「一度挟まれたら、機械が止まるまで巻き込まれ続ける」という構造上の弱点を抱えていました。
一般的に、ロール搬送を伴う設備は「はさまれ・巻き込まれ」災害のリスクを内在しており、製造現場における労働安全上の重要な対策対象とされています。今回ご紹介する株式会社スギイマシナリィの「セーフティー・スプレッダー(安全増糊付機)NMZ-100/JH」は、この構造的な課題に正面から向き合った一台です。
厚みの変化を感知し、ロールが自ら退避する仕組み
NMZ-100/JHの最大の特徴は、その名の通り「安全性」を主眼に設計されている点にあります。通常想定している板厚と異なる厚みのもの(=異物や巻き込まれた身体の一部など)がロール間を通過しようとすると、機械がその厚みの違いを感知し、上下ロールが油圧シリンダーの力で瞬時に退避する仕組みが組み込まれています。
この安全機構は、2025年の日本木工機械展で記者クラブ賞を受賞するなど、業界内でも高く評価されています。本記事では、この設計思想が研磨・コーティング現場にとってどのような意味を持つのか、という点を中心に掘り下げます。
主なスペック
・コーターロール:φ190×L1,050mm
・ドクターロール:φ125×L1,050mm
・送りロール:φ188×L1,000mm
・有効板厚:0〜50mm(電動昇降式)
・動力構成:上下ロール駆動1.5kW(インバーター変速)/ドクターロール駆動0.2kW/上ロール昇降0.1kW
インバーターによる速度調整や電動昇降機構を備えることで、材料や工程条件に応じた柔軟な運転が可能になっている点も、実務での使いやすさにつながっています。
なお、圧力設定・送り速度・板厚設定などの条件によっては、安全機構が正しく作動しない場合があるとされています。導入にあたっては、自社の運用条件に即した検証と、適切な安全確認体制の構築が前提になります。
導入にあたっての注意点:圧力設定・送り速度・板厚設定などの条件によっては、安全機構が正しく作動しない場合があるとされています。導入にあたっては、自社の運用条件に即した検証と、適切な安全確認体制の構築が前提になります。
研磨・コーティング現場における安全設計の実務的な意味
私たちが手がける精密研磨材料の世界でも、基材へのコーティング・含浸工程は品質を左右する重要な工程であり、同時に人手に頼る部分が今なお多く残っています。研磨紙・研磨布の含浸や目止め、不織布研磨材のバインダー含浸、機能性フィルムのハードコートや防汚コーティングなど、原反をロール間に通して加工する工程は、研磨材・表面処理材料の製造現場にも数多く存在します。これらはNMZ-100/JHと同様に「ロールに材料を挟み込んで搬送する」という構造上の特性を共有しており、巻き込まれ災害のリスクと無縁ではありません。
機械の安全性を高める設計手法には、優先順位があるとされています。国際規格ISO 12100(機械類の安全性に関する設計原則)では、まず機械そのものの構造や動作原理によって危険源を取り除く「本質的安全設計方策」を最優先とし、それでも残るリスクには安全柵やライトカーテンなどの「安全防護」を講じ、最後に警告表示や取扱説明といった「使用上の情報」で補うという3段階の考え方が示されています。NMZ-100/JHの「厚みの変化を感知してロールが自ら退避する」という仕組みは、この中でも優先度の高い「本質的安全設計」に近い発想だといえます。
生産性や品質を追求する一方で、「作業者の安全性をどう担保するか」は、設備投資の意思決定において軽視できないテーマです。特に人手に頼る糊付け・塗工・含浸工程では、作業者の熟練度や集中力に安全性の一部を委ねざるを得ない場面も少なくありません。異常を検知して機械側が能動的に退避するという発想は、こうした「人の注意力に頼る安全管理」から一歩進んだアプローチとして注目に値します。
NMZ-100/JHのような「異常検知→退避」という設計思想は、糊付け・塗工工程に限らず、ロールツーロール(Roll to Roll)搬送を伴う多くの製造プロセスに応用できる考え方です。建築・建設、製紙・パルプ、自動車・輸送機器といった業界だけでなく、研磨紙・研磨布・不織布研磨材・機能性フィルムといった研磨材料の製造現場においても、こうした「安全を織り込んだ設備設計」への注目は、今後さらに高まっていくと考えられます。
まとめ
生産性の向上と作業者の安全確保は、対立する目標ではなく、両立させるべき設計課題です。NMZ-100/JHは、そのことを改めて示してくれる一台だといえるでしょう。研磨・コーティングの現場でも、自社の工程にある「巻き込まれ」リスクを一度棚卸しし、本質的安全設計の観点から見直してみる価値があるのではないでしょうか。